直木賞
芥川賞は申し訳ないけどコメントのしようがないので。
直木賞は朱川湊人『花まんま』(文藝春秋)に決定。やったー。
私が大プッシュしていた作品だけに、嬉しいなあ。
私は5月25日の日記にて、『花まんま』の感想として、以下のように書いた。
一言で言って、素晴らしい。早くも作風がいい方向に固まってきたように思う。昔の情景を織り交ぜながら、主に子どもの視点で描かれた作品ばかりで、「ノスタルジック・ホラー」ともいうべき雰囲気がある。30代〜40代にはかなり「くる」のではないだろうか。文章力も安定しており、既に風格さえ感じさせる。もう直木賞も時間の問題では。
予言が的中してしまったぞ。わっはっは。
全6作のうち、「トカビの夜」「摩訶不思議」「花まんま」の3作は、本当に傑作だ。これで多くの人に読まれるであろうことが喜ばしい。たくさんの人に感動していただきたい。
北村薫『ニッポン硬貨の謎 ――エラリー・クイーン最後の事件――』
- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/06/30
- メディア: 単行本
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若竹七海の実体験が元に盛り上がった「五十円玉二十枚の謎」をベースに、北村薫がEQのパスティーシュとして作ったのが本作。まさに、パスティーシュかくあるべし、の手本のような作品だ。いかにもエラリー(エラリイ、ではないのは創元だからだ)の書きそうな文章であり小説だ。日本文化への微妙な認識違いまでがリアルだ(なんせ、「タマカ・ヒエロ」と書くような人だからね)。しかも起こる事件は後期クイーンの世界そのもの! 前半の『シャム双子』論といい、後半の展開といい、北村薫自身が持つクイーン論の全てをこれ一作にぶちまけた作品と言えるだろう。瀬戸川猛資、飯城勇三が註で登場したり、クイーンファンなら「これは」と思い当たるネタも満載だ(ところで大阪の書店でサインを貰う高校生は、ひょっとして有栖川有栖氏あたりを想定しているのだろうか?)。殺人事件の方が凄すぎて、五十円玉二十枚の謎の解明が霞んでしまった、いや、作品内に取り込まれてしまっただけで、若竹七海の実体験の謎解きには結局なっていないのが残念といえば残念。クイーンをあまり読んだことのない人、また「北村薫のファンだから」というだけで手に取った人には解り難い部分もあるかも知れない。だが作品としての完成度はかなり高い。「本格ミステリ大賞」の候補にもなるのではないか。個人的には、『シャム双子』と『緋文字』を読み返したくなった。