詠坂雄二『リロ・グラ・シスタ』

リロ・グラ・シスタ―the little glass sister (カッパ・ノベルス)

リロ・グラ・シスタ―the little glass sister (カッパ・ノベルス)

ラノベ風学園ミステリ。登場人物がいちいちイラつくような奴ばっかりで、一時は苦痛ですらあったが、ラストの仕掛けには単純ながら騙された。メインの物理トリックはやや拍子抜けか。
この次作が『遠海事件』になるわけで、ものすごい成長だと思うと同時に、この時点で才能を見抜いていた版元や推薦者(綾辻行人佳多山大地)は慧眼である。

「CRITICA」第3号

探偵小説研究会の同人誌「CRITICA」の第3号が発売になりました。入手方法は下のリンク先をご参照ください。
http://www.geocities.co.jp/tanteishosetu_kenkyukai/index.html
市川尚吾さんの評論が中篇くらいの分量で読み応えあり。さらに海外古典リバイバルブームを振り返った座談会(戸川安宣法月綸太郎、横井司)や、佳多山大地さんによる『毒入りチョコレート事件』第七の解答など、充実しています。千街晶之さんの記事「断章後日譚――加賀美雅之氏および笠井潔氏への返答」は、前号の記事を読むとより楽しめるので、お持ちでない方は併せてどうぞ。

講談社の「100冊書下ろし」と、かつての「推理特別書下ろし」

今日(8月24日)の朝日新聞朝刊、講談社の全面広告が掲載されていました。正月の広告でも予告されていた、創業100周年記念の書下ろし100冊の発表でした。2008年11月から、二年間かけて、100人の作家による書下ろし作品を出す、というものです。

具体的な作家名は、こちらを見ていただくとしましょう(手抜きですみません)。
http://d.hatena.ne.jp/CAX/20080824/kakioroshi100_kodansha


ただ、個人的には、楽しみな反面、あまり「わくわくしない」気がします。別に作家名を予告しなくても、書下ろしで出すものは全部「100周年記念書下ろし」にすればいいのでは、とも思います。予告しておきながら書けなかった場合が大変でしょうし。


ところで講談社は、かつても「推理特別書下ろし」と銘打った叢書シリーズを出していました。こっちの方が今回よりも遥かに「わくわくした」覚えがあります。ミステリの書下ろしといえばまだ「ノベルス」がメインだった時代でした。
一部持っている本もあるので調べようとしたのですが、押入れの奥にあってすぐには見つけられませんでした。ネットで調べると、なんとなんと、きちんとデータベースにされていたページがありました。こういうの、大事ですね。
http://www.inv.co.jp/~baba/book/list/kodansha.html
第一期が1986年から刊行、そして第三期は「創業80周年記念」だったんですね。
そして改めて、レベルの高さに唸ります。とりわけ第一期は、岡嶋二人『そして扉が閉ざされた』志水辰夫『オンリィ・イエスタデイ』の同時刊行が凄い。私も両方買いました。その次が島田荘司『異邦の騎士』笠井潔『復讐の白き荒野』が同時刊行。次が船戸与一『伝説なき地』上下巻。そして最後に連城三紀彦『黄昏のベルリン』で締める。いやー、もうお腹一杯です。
さらに第二期には東野圭吾『眠りの森』があったり、第三期には泡坂妻夫『毒薬の輪舞』、島田荘司暗闇坂の人喰いの木』、東野圭吾『変身』など。もうこんなレベルの高いシリーズ、出ないかも知れませんね。

廣瀬陽子『コーカサス 国際関係の十字路』

コーカサス国際関係の十字路 (集英社新書 452A)

コーカサス国際関係の十字路 (集英社新書 452A)

今問題となっているグルジアがあるのが、旧ソ連黒海カスピ海に挟まれたコーカサス地方である。グルジアの他に、アゼルバイジャンアルメニアの三国があり、いずれも数多くの問題を抱えている。さらにその北部には、紛争が絶えないチェチェンもある。現在世界で最も危険な地域でもあるこの地方の現状と問題点を総括した一冊だ。
とにかく「なんでグルジアであんなに揉めているのか」が知りたくて、この本が実にタイムリーなタイミングで出ていた(7月の新刊)ので買ったのだが、結論から言えば、「これを読んだくらいではさっぱり判らない」であった。問題が多すぎるのだ。
グルジア問題のベースにあるのは、ロシアの影響下から離れたくてNATO入りを画策しているグルジアと、まだ手元に置きたいロシアの思惑の違い、なのだが、そこに民族問題が各地で勃発しており、特に「南オセチア共和国」の問題が表面化していて、ロシアが絡んできているらしい(「北オセチア」がロシア領のため)。
チェチェンについての記事もあるが、こんなのを読むと、辛い気持ちになる。以下引用。

チェチェン自爆テロ事件の特徴として、実行犯が女性であることが多い。夫や子供を殺害されたチェチェン人の妻や母が、激しい復讐心と愛する人を失った絶望感のなかで、報復のためにテロに関与する傾向が強く見られるからである。「黒い未亡人」という夫を失った妻のテロ組織も存在するというが、自主的に、というよりは、グループの実態を知らぬままに仲間となり、テロに関与させられるケースが多いようだ。
(91〜92ページ)