島田荘司の情熱的な「著者のことば」

「この作品ほど徹底した苦さと喜びとを同時に運んできたものは他にない。一方では手ひどい非難を浴び、一方では絶賛された。しかしこれが処女作であるというささやかな誇りが、それからの夜の細い道を、僕に歩かせたと思う。批判を恐れ、ほどぼとのところで、などという分別を何ひとつ知らず、これは持てる力のありったけを叩きつけた作品だと言い切れるからである」
島田荘司のデビュー作『占星術殺人事件』の講談社ノベルス版(昭和60年2月刊行の初期版)は、当時京大の学生だった綾辻行人が(本名名義で)解説を書いているという点でも重要な意味を持つ作品である。その解説も「本書『占星術殺人事件』は、僕たちミステリー・マニアの学生たちの間では、刻々と伝説化しつつある作品です」と、実に印象的な文章から始まっており、解説だけでもこの作品に対する情熱が伝わって来る。その本に書かれた「著者のことば」が上に挙げた文章である。まだまだ新人作家の域を出ていなかった島田荘司の、本格ミステリへの思いが伝わる熱のこもった文章であり、当時この「著者のことば」にしびれた私はこの文章を暗誦していたほどだった。ミステリ関連で私が特に好きな文章のひとつである。読んだことのない若い読者も多いと思うので、ここにあえて記してみた。