五十嵐貴久『TVJ』

TVJ

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その日、お台場にあるTV局テレビ・ジャパンでは、新社屋完成を記念した72時間に及ぶ生番組が始まっていた。最新のコンピュータ“ブレイン”によって完全に管理された新社屋にはトップも満足していた。ところが生放送中、スタジオに迷彩服姿の男たちがいきなり入ってきた。みんな最初は演出か何かだと思ったが、そうではなかった。目的も不明の集団に、突然TV局が占拠されてしまったのだ……テレビ・ジャパンの経理部社員の由紀子は、編成部の圭と付き合っていたが、なかなかプロポーズの言葉が聞かれていなかった。だがいよいよ正式にプロポーズ、というタイミングで事件は起こった。由紀子は一人取り残された。ここから謎の集団との闘いが始まるのだ。
突然何者かにジャックされるTV局と、それに一人で立ち向かう女性社員、という構図は「ダイ・ハード」みたいなものを連想させる。基本はそうなのだが、由紀子は戦術にも長けていないごく普通の女性であり、決して強くないので、あたふたしながら危機を逃れていく過程が面白い。それ以上に、謎の占拠集団の動機が全く分からないので、ページを繰る手も止められない。主張・要求を生中継するというアイデアも秀逸。例によって細かい伏線が巧く活かされており、最後まで飽きさせないエンテタインメントに仕上がっている。中盤で犯人グループの素性が一旦明かされたときに、みんなが「それなら仕方がないな」と同情するシーンがあるが、そんなこと言ってる場合じゃないだろう、とは思った。それと、ビルの見取り図は本文ラストではなくて最初に挿入して欲しかった。目次に明記されていたが、全く気付かなかったので。