近藤史恵『モップの精は深夜に現れる」

モップの精は深夜に現れる (ジョイ・ノベルス)

モップの精は深夜に現れる (ジョイ・ノベルス)

格好は派手だが、仕事は完璧にこなす「清掃員探偵」キリコの事件簿第二作。今回も軽く読めながらも、ミステリ的にもよく考えられている秀作短篇集であった。以下にミニコメを。
「悪い芽」:家では娘に嫌がられ、会社でも女子社員から何となく疎外されていて孤独感に苛まれる栗山は、最近入社した二人の常軌を逸した行動が気になっていたが……現代風の若者に困り果てている上司の図、と思っていたら、意外な真相が隠れていて驚かされる。本短篇集中でも完成度では随一。娘とのコミュニケーション不足をキリコが仲立ちするなど「いい話」にもなっている。
「鍵のない扉」:小さな編集プロダクションの社長が死んだ。ネコアレルギーがあった社長だったが、事務所に大量の猫の毛が残されていた。他殺なのか……? ネタとしては地味だが、昔でいうところの「奇妙な手がかり」もの。意外なところから真相が判明する。
オーバー・ザ・レインボー」:モデルの葵は同じ事務所のケンゾーと付きあっていたが、彼が「サーシャ」と二股をかけていて、さらにサーシャを妊娠させたことを知ってショックを受ける。だがその後、屋上に出ると下から鍵を掛けられたり、サーシャに悪戯メールをしただろうと問い詰められたり、おかしなことが相次いで……ありがちな「痴情のもつれ」的な展開ではないところが良い。
「きみに会いたいと思うこと」:前作で登場していた大介とキリコの「後日談」的なエピソード。突然キリコが「家出に近い旅行」をしてしまった……いろいろな人々の悩みを聞いて解決してあげるキリコも「超人」ではなく、普通の「女性」であることが伺える一篇。