桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

山田なぎさのいるクラスに、転入生がやって来た。海野藻屑と名乗る子で、どう見ても少女だが、本人は「人魚」だと言い張っている、少し奇妙な子だった。なんでも有名な歌手、海野雅愛の子供らしい。藻屑の足に殴打の跡らしき痣があるのを、なぎさは見てしまった。なぎさの兄、友彦は、藻屑のことを「砂糖菓子の弾丸」に喩えた。空想的弾丸を撃ちまくっている……そして、事件は起こる。
最初に結末(にあたる新聞記事)が書かれており、そのカタストロフィに向かって進んでいく小説だ。全編通して、話は全くもって暗い。藻屑に振り回されながら辛い現実に向き合うことになる少女なぎさを通じて、「生き残ったもののみが大人になる」「何かを失い、何かを乗り越えてみんな大人になる」というメッセージが込められているように思った。タイトルや37ページ、87ページの描写などから、著者がカーを意識しているのは明らかだが、ミステリ的な驚きはほとんど用意されていない。ただ、ラスト近くの藻屑が消えるトリック(と呼べるものかどうかは分からないが)は、87ページのやり取りで暗示されている、と取れないこともない。辛いが、忘れられない物語と言えるだろう。