森谷明子『れんげ野原のまんなかで』

ススキ野原が生い茂る街外れに突然建っている図書館を舞台に、司書の文子が遭遇するささやかな謎たち。事件の鍵になるのは常に「本」である。個性的な登場人物たちの描写も面白く、メインが本だけに活字中毒者にはぴったり。ミステリとしても切れ味がいいのでお薦めだ。ミニコメ。
霜降――花薄、光る。」:「ミステリーズ!EXTRA」に収録されていた短篇。閉館後に隠れる男の子たちと、ギターケースに詰まったカップ麺などの小さな謎たち。全ては一冊の本に集約される。それを知らなければ事前に真相は見抜けないが、だから詰まらないということは全くない。
冬至――銀杏黄葉」:洋書絵本で作られた謎の暗号。二人の老人のキャラクターと心理が面白い。
立春――雛支度」:店のコピー機に残された市民の個人情報と貸し出し中の図書リスト。タイムリーな「個人情報の漏洩」の謎だが、話が妙な展開を見せ、全く意外な真相が明らかに。第二話に登場したあの人が事件解決のポイントになるラストの展開には和める。
「二月尽――名残の雪」:雪が降った日に秋葉氏が話した戦前の「雪女目撃談」。事件が過去なので安楽椅子探偵ものだが、浮かび上がる事件はちょっと哀しい。
清明――れんげ、咲く」:図書館の周りのススキを刈り倒し、代わりに育てられたのはレンゲソウ。一面がれんげ野原になった頃、図書館に廃校になって久しい学校の図書が紛れ込む「事件」が……短篇集中、最も重い事件だが、後味はいい。