我孫子武丸『弥勒の掌』

弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)

弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)

辻恭一がマンションに戻った時、妻の姿はなかった。三年前に教え子との不倫が発覚して以来、溜まりに溜まった鬱憤がついに爆発し、愛想をつかして出て行ったのだろう。しばらくして、恭一のいる学校に警察がやって来た。妻の捜索依頼が出ているという。しかも自分が殺したのではないかと疑われているようだ。恭一は以前妻のことを尋ねてきた同じマンションの坂口という女性の部屋に向かった。彼女の部屋はまるで巨大な神棚だった。《救いの御手》なる宗教に入信しているらしい――巡査部長の蛯原のもとに同じ目黒署の刑事課から連絡が入った。妻の和子がラブホテルで死体で発見されたというのだ。何故よりにもよってラブホテルなのか、一緒にいた男に殺されたのだろうか。だが刑事は蛯原の元ヤクザとの汚職疑惑を匂わせながら、彼本人を疑っていた。最悪だ。犯人を自分で見つけて、復讐するのだ。ルポライターと共に調査を開始した蛯原が妻の部屋で発見したのは、弥勒像だった。新興宗教団体《救いの御手》が高く売りつけている代物らしい。彼は《救いの御手》に向かった――。
あれー、面白いじゃん。新興宗教を絡めるのは使い古された手だし、教義も実態もどこかで見たようなもので新味はないが、やはりページを繰る手は止まらない。そして真相にはすっかり驚かされた。やっぱりその手のトリックが使われるのだろうと思いながら読んでいるので、一部読める部分もあるのだが、全体の仕掛けというか、著者の意図が素晴らしく、おおーーっ、とラスト近くになって興奮しまくりだった(2つの事件の犯人の意外性と、××役の意外性)。めちゃくちゃ本格してるよこれ。後味は決して良くないが、この終わり方しかあり得ないし、だからこそ深い余韻が残る。これだけの分量で、大作に負けないくらいの存在感を生み出していると思う。激しくお薦めしたい。