畠中恵『とっても不幸な幸運』

とっても不幸な幸運

とっても不幸な幸運

新宿にあるその酒場の名前は『酒場』だ。実に素っ気ない。店長も「店長」としか呼ばれない。一見さんには冷たいが、店内はいつも常連客で賑わっている。そんな『酒場』に、店長の娘のり子がある日「缶」を持ち込んだ。百円ショップで買ったというその缶には『とっても不幸な幸運』と書かれてある。家で缶を開けたら、亡くなったはずの母親が見えたというのだ……客が持ち込む謎の缶『とっても不幸な幸運』を開けると、なんらかの幻影が見え、その幻影に関する話が展開していく連作短篇集。店長やのり子、常連客たちのキャラクターは面白いし、物語のアイデアもいいと思うのだが、ストーリーがいまいち乗れないものばかりで、どうにも消化不良の感がある。最後の話がちょっと感動するかな、くらいか。設定が面白いのに、上手く活かせていない気がする。勿体無い。