朱川湊人『花まんま』

花まんま

花まんま

文春では『都市伝説セピア』に続く短篇集。一言で言って、素晴らしい。早くも作風がいい方向に固まってきたように思う。昔の情景を織り交ぜながら、主に子どもの視点で描かれた作品ばかりで、「ノスタルジック・ホラー」ともいうべき雰囲気がある。30代〜40代にはかなり「くる」のではないだろうか。文章力も安定しており、既に風格さえ感じさせる。もう直木賞も時間の問題では。以下ミニコメ。
「トカビの夜」:近所に住む朝鮮人一家の兄弟の弟が死んだ。その後、その子の幽霊が見えるという話が相次いで……最初の短編からして、もう哀しい。周囲の家の窓に×××××が飾られる場面には泣きそうになった。関係ないけど「パルナス」の歌、全部歌えますか?
「妖精生物」:楽しみにしていた少女雑誌を買うお金を使ってまで買った、クラゲのような謎の「妖精生物」……この短編のみ、グロいシーンがある。そしてそれ以上に怖い「最後の一行」が効いている。
「摩訶不思議」:おっちゃんが死んだとき、愛人だったカオルさんから「棺桶に入れて」と頼まれていたチリ紙の包み。その中にあったのは……ちょっとご都合主義的だが、楽しい話だ。落語の世界にありそう。
「花まんま」:妹のフミ子が生まれたのは、俺が3歳の時だ。お父ちゃんと一緒にバンザイ! って叫んだ。お父ちゃんはその二年後に交通事故で死んでしまった。フミ子はその後、何かが変わり始めた。見たこともないはずの「彦根」という字を書いたり、「繁田喜代美」と何度も書いたり。自分は彦根に住んでいた繁田喜代美の生まれ変わりなのだ、とフミ子は言った……本作のベスト。どころか、今のところ今年読んだベスト短編だと言い切れる。「生まれ変わり」というありがちなテーマだが、クライマックスにおける「人情」と「人情」のぶつかり合いに感動した。どっちに転んだのかは、実際に読んで確認して欲しい。そして綺麗な締め方に満足。
「送りん婆」:おばさんにはある特殊能力があった。私はその「手伝い」をさせられることになり……死の間際にある人を、きちんと「あの世」に送る職業「オクリンバァ」の話。「DEATH NOTE」みたい。おばさんの最後の台詞が笑える。
「凍蝶」:かつて兄から聞かされた「鉄橋人間」の話。人を轢いた列車がそのまま走ると、鉄橋でその轢いた肉片を落とす。その肉片が夜な夜な集まって人間となるのだ。だがそれは鉄橋でしか生活できない。孤独なのだ。まるで私のようだ……私の実体験にも一部重なる部分があって、胸が詰まった。後半はやや綺麗に書かれ過ぎているか。