愛川晶『六月六日生まれの天使』

六月六日生まれの天使

六月六日生まれの天使

目が覚めた。男と一緒に寝ていた。先ほどまで激しく愛し合ったばかりだったのだ。その余韻に浸って……いるどころではなかった。何かがおかしい。ここは自分の部屋なのか? そして、目の前で眠っている男が何者なのか、全く分からなくなっていた。それどころではない、男の頭部には、デスマスクのような仮面が被せられていたのだ。そして……自分が誰なのかも、忘れてしまっている。記憶喪失だ。外に出た。夏だと思っていたのに、外は雪が降っていた。この状況は一体何なのか――。
記憶を失った女性の「自分捜し」ミステリ。冒頭が何が何だか分からない状況なので、どういうことなのだ! と読む手がもう止まらなくなる。過去のシーンや、誰かが書いた別の文章がカットバックで割り込まれるので、ああ叙述トリック系だな、と予想は付くし、「仮面の男」の状況が読めた時点で事件の真相もちょっと読めてしまった。もっとも予想よりはさらに一枚上を行っていたので、充分驚かされたのだが。ただし、「純愛ミステリー」と言うほど、恋愛小説の要素は強くないように感じた。また、カッコで閉じられた独白が非常に多いのも読んでいて少し気になった。