東川篤哉『館島』

館島 (ミステリ・フロンティア)

館島 (ミステリ・フロンティア)

瀬戸大橋が掛かる前の瀬戸内海の小島、それも瀬戸大橋の「橋脚」にさせられる予定の「横島」なる島に、ある種の天才建築家、十文字和臣の別荘がある。六角形をしたその奇妙な館で一月に、当主十文字和臣が死亡する事件が起こったのだが、転落ではなく墜落死としか思えない状況だったのだ。墜落死するほどの高さはないのに……それから半年後。刑事の相馬隆行はその別荘に向かっていた。十文字家と親交のあった県会議員・野々村淑江とその一人娘・奈々江も一緒だ。奈々江は十文字の長男と三男が奪い合いをしていた。猛烈な台風が近づく中、その館を舞台に、またしても奇妙な事件が起きる――。名探偵(?)小早川沙樹が事件の謎に挑む。
東川作品の特徴のひとつに、「ツボにはまるととことん楽しい文章」が挙げられる。本書の最初の一文なんて、こうだぞ。「十文字和臣の名は岡山では知らない人がいないほど有名であり、岡山以外では知ってる人がいないほど無名である」――こんな文章の癖が楽しめれば、実に楽しい読書だ。逆に「ハナにつく」と気になる人には、東川作品は楽しめないかも知れない。ただ今回は「東川節」はやや大人しめ? と思っていたが、読み進むにつれて襲いかかる、くだらないギャグと笑えそうで笑えない文章の数々。これよ、これがいいのよ! あれ? ミステリとしての評価をしてないぞ。これがまた、トンデモなトリックが登場するのだ。まあ、「館モノ」だし、ねえ……。しかも、ただ派手なだけでなく、そのトリックが犯人限定の論理にきちんと融合している点は高く評価しておきたい。細かい伏線も回収されていて、最後には年代設定(何故瀬戸大橋が出来る前という設定なのか)までが腑に落ちる。アクが強いから、ということもあるが、二度と忘れられないトリックであり作品になるだろう。