大統領の理髪師(2004年韓国作品)

大統領の理髪師
ソン・ハンモ(ソン・ガンホ)は大統領のお膝元・青瓦台の近くで小さな理髪店をやっている。助手だったキム・ミンジャ(ムン・ソリ)を無理やり襲って妊娠。気が付いたら五ヶ月だったので「四捨五入」で産むことになった。その頃大統領選挙があったが、ハンモらは不正選挙に加担し、李承晩政権を続けさせた。それに対する学生たちの反対運動の真っ只中で、ミンジャは男の子を産む。長寿を願ってナガンと名づけられた。翌年、軍事クーデターが起こり、政権は交代した。やがて理髪店に中央情報部の人がやって来たことから、ハンモの人生が変わった。彼は朴正熙大統領の「専属理髪師」として、毎週青瓦台に向かった。一家が一番幸せな時期だった。だが、北朝鮮スパイの侵入事件があって以来、ハンモたちにも韓国激動の歴史が大きく影を落とす。
激しく泣ける場面も感動するシーンもなく、全体的に淡々と綴られていく映画。バックグラウンドに韓国の実際の現代史が絡んでくるので、日本人には分かり難い部分も多い(実は「四捨五入」というキーワードにも政治的背景があるそうだ。詳しくは公式サイトを参照)。あらかじめ予習しておいた方がいいかも知れない。北朝鮮スパイが「集団下痢」(マルクス病と呼ばれる)をしていた、というだけの理由で、下痢をした人々が(無罪であっても)次々に捕まり、拷問による自白を経て死刑になる、などという理不尽な事件に息子が巻き込まれ、無事解放されるものの大きな後遺症が残ることになる。もちろんそれに怒りをぶつけるハンモだが、大統領の理髪師としての仕事は続けるところに、庶民としての悲しみを感じる。ラストのシーン、韓国の大きな歴史の変動よりも息子の「第一歩」が幸せなのだ、というあたりにはちょっと感動した。他にもいろいろ思うところはあるが、上手く文章に書けないのがもどかしい。一庶民の生活を通じて、激動の韓国現代史を真正面から取り上げ、浮き彫りにさせた名作と言えよう。俄か韓国ドラマファンにも、こういう映画こそ観ていただきたいのだが。
そして何よりも素晴らしいのが、ソン・ガンホムン・ソリの二人。結婚前から息子の成長までの約25年間の時間経過を見事に演じきっている。二人とも名優だなあ、と改めて実感した。こんな「実力派」にももっと目を向けていただきたいものだ。ナガン役の子役イ・ジェウンは、「殺人の追憶」の冒頭でもソン・ガンホと共演している。