有川浩『海の底』
- 作者: 有川浩
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2005/06
- メディア: 単行本
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『空の中』でその筆力をまざまざと見せつけ、「大人の鑑賞にも充分堪えられるラノベ作家」として注目された有川浩の第三長編。相変わらず、素晴らしい。いや、素晴らしいなんてもんじゃない。これを読まずして今年のエンタテインメントは語れない、とまで断言しておこう。だが出来れば「あとがき」は先に読まないで欲しい。「あとがき」の三行目に、この小説をたった一行で見事に要約した言葉があるからだ。私は最後に「あとがき」を読んで、ああなるほど、そういうことかと感服した。突然の事態に襲われた潜水艦での子供たちと自衛隊員の物語を軸に、潜水艦内部と外部で様々な物語が交錯する。どのシーンでもディテールの書き込みが素晴らしく、巨大ザリガニの正体から対処法までもが「ありうる話」になっているし、前半での亡くなって行く者への暖かな眼差し、ネット掲示板での情報交換、潜水艦や武器設備の描写など、どこもきっちりと読ませる。そして何よりも少年たちの描き分けが舌を巻くほどに巧い。唯一だが肝の据わった女の子(だが彼女には女性特有の「緊急事態」が起こる)、その弟が抱える「病」、集団に反発して外部に嘘情報を密告しようとする少年、そして仄かな恋愛感情……。ザリガニが嫌いな方にはトラウマになるかも知れないが、それが気にならない方には、実に充実した読書体験が得られることを保証しよう。絶対に読むべし。