伊坂幸太郎『死神の精度』

死神の精度

死神の精度

私は死神だ。調査対象として宛がわれた人物を一週間観察し、その人物が死に値するなら「可」と報告すれば、その人物は必ず死ぬ。私が仕事をする時はいつも雨が降る。人間が発明したもので最も素晴らしいのはミュージック、最も醜いのは渋滞だ……伊坂幸太郎最新作は、日本推理作家協会賞を受賞した表題作を含む連作短篇集だ。小説としては、これ以上ないほど素晴らしい。完成された文章、洒落た会話、結末の意外性。調査相手の死を自在に操れるという設定なだけに、死に関する話が多く、それぞれに視点が面白かったりもする。一例を挙げる。

『「ひどすぎです」彼女はうなだれて、生気のない目で私を眺め、力なく微笑むと、「死にたいくらいですよ」と言った。
 君の願いは叶う。声を上げそうになる。』(17ページ、表題作より)

ただし、これが他の作家による作品なら「すごい傑作だ!」と大絶賛しているところなのだが、これは伊坂幸太郎の作品なのだ。作者には大変申し訳ないが、私の中でこの作者に求めるハードルはとても高い。この完成度でも満足できない気がした。小説としては全て申し分のない傑作だが、ミステリとしては物足りなさが残る。プロットに詰めの甘さを感じてしまった。もっともっと意外性を求めてしまう読者としての私がいるのだ。
表題作はその中でも「意外な動機もの」として、ミステリ的にも完成度が高い。嵐の山荘ものという本格の王道ネタに死神を絡めた「吹雪に死神」、全てを達観した老女との会話が楽しめる「死神対老女」あたりもお薦めだ。いや、小説としては全て最高なのだ。いつまでも読んでいたいと思ったくらいだ。