黒田研二「水底の連鎖」(川に死体のある風景第2回)

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水難救助隊の瀬古は、長良川の川底にいた。軽トラックが川に落ちたとの通報を受けて、トラックと運転手を引き上げるところだった。運転手は既に亡くなっていた。が、そこには異様な光景が広がっていた。軽トラックの他に、あと二台、車が横たわっていたのだ。古ぼけた軽自動車と、紺のジープ。とりあえず三台とも引き上げることになったが、不法投棄だと思われた軽自動車とジープにもまた、運転席に死体があったのだ。この堤防道路は半年間に4件の転落事故があっただけに、普段から危険な場所であることはよく分かっている。だが同じ場所、しかもさほど危険性のないはずの直線道路部分で、一度に三台も沈んでいるのは、ちょっと異常だ――軽トラックの遺体は越川重宜で、事故の瞬間は複数の目撃者があった。ジープの遺体はガソンリンスタンドで働いていた室伏安則、軽自動車の遺体は捜索願が出ていた澤木麻帆という女性だった。と、いうことを翌朝の朝刊で知った瀬古は、幼馴染みで妹のような存在のみずきの「死者が発した負のエネルギーが事故を呼び起こした」という説を冗談半分に聞いていた。二人で現場の河原に行くと、神妙な面持ちの中年の男女が立っていた。二人は澤木麻帆の両親だった。そこで瀬古は、麻帆が室伏と婚約していたという事実を知らされる……。


雑誌「ミステリーズ!」との連動企画として進行中の「川に死体のある風景」第二回分として掲載・販売されている作品。同じ場所に三台の車が沈んでいる、という謎めいた冒頭から、被害者同士の関係が明らかになり、意外な真相に辿り着く。リーダビリティーも高く一気に読むことができるし、真相部分も、伏線の巧みさに感心させられ、異様な動機設定に驚かされる。伏線といえば、中盤当りで一見無関係なエピソードが挿入されるが、それも実は伏線だったということが判明するあたりも巧いところだ。探偵役の二人組のキャラも面白い(シリーズ化希望)。川をテーマにした連作だけあって、ところどころで「川」そのものへの暖かい視線も感じることが出来る。様々な要素を一作に織り込んだ、ミステリ短編の理想形と言えるだろう。