絲山秋子『逃亡くそたわけ』

逃亡くそたわけ

逃亡くそたわけ

亜麻布二十エレは上衣一着に値する。
亜麻布二十エレは上衣一着に値する。
この幻聴が聴こえるたび、あたしは衝動が高まるのだ。ついに結界を越えた。精神病院から脱走した。名古屋人なのに標準語を使う妙な男「なごやん」と共に、九州を縦断する目的のない逃亡が始まった。
『袋小路の男』とはうって変わって、大衆小説風に描かれた、ただ「逃げる」だけの話。これを例えば逢坂剛が書くと大冒険小説になるのだろうし、戸梶圭太が書くとハチャメチャな小説になるだろう。ひたすら地味に、かつ都合よく進む冒険小説のようだ。でもそんな中にも事件は起こっているし、やっぱり面白い。なごやんのキャラは最高だ。
直木賞候補も頷ける作品だが、さて受賞となると、どうかなあ。