米澤穂信『クドリャフカの順番』

クドリャフカの順番―「十文字」事件

クドリャフカの順番―「十文字」事件

神山高校の文化祭、通称「カンヤ祭」が始まった。折木奉太郎千反田える伊原摩耶花福部里志の4人で構成される古典部では、紆余曲折を経て完成した文集「氷菓」を売る予定だった。が、手配を間違えて部数を異常に多く刷ってしまったのだ。千人いる学校の文化祭で、三日目には一般にも開放されるとはいえ、200部もの文集を売るのは至難の業だ。そんな中、校内で謎の盗難事件が連続して起こる。犯行現場には文化祭のしおりと、「十文字」なる人物の犯行声明が残されていた。「十文字」とは何者なのか、一見無意味なものを盗む真の動機は何なのか。文集完売のため、古典部メンバーは事件解明に挑む。
スニーカー文庫から続いた「古典部」シリーズ第三作がソフトカバー本として刊行(なお過去2作は角川文庫として再刊された)。米澤穂信の手にかかると、どうしてこんなにも少年少女たちが活き活きと描かれるのだろう。今回は4人の視点が入れ替わりで描かれるが、それぞれの描き分けも素晴らしい(とりわけ、千反田える視点の文章は実にユニークだ)。文化祭はみんながみんなポジティブな気持ちで参加するものではないことも、例えば摩耶花視点の部分がよく表している。事件はミッシングリング(リンク?)もので、その真相、特に動機設定が素晴らしい。こうしたくなる心境は、私もとてもよく判る。ただ爽やかなだけでなく、ちょっとだけ苦い要素を残すのが米澤作品の特徴だが、本作もまさにそんな感じの小説だ。なお作品内容とは直接関係ないが、本作の表紙は本当に素晴らしい。