蓮見圭一『心の壁、愛の歌』

心の壁、愛の歌

心の壁、愛の歌

恋愛小説『水曜の朝、午前三時』がロングセラーとなっている蓮見圭一の最新刊。刊行前にゲラを読ませていただく機会があったのだが、その時はあまりいい印象が残らなくて、なんとも中途半端な感想を書いていた。だが今回改めて読み返してみて、印象が随分変わった。どれも静かながらも、心に残る佳作ばかりだったのだ。このタイプの小説を読むときはじっくり噛み締めるように読むべし、と自分に新たな教訓を与えてくれた一冊となった。
特に深い余韻を残すのは戦争について語られる「夜光虫」「テレーゼ」。「夜光虫」なんて、老人の戦争体験を聴いているだけの話なのに、情景が浮かぶともう忘れられない。「ハッピー・クリスマス、ヨーコ」はラストが印象的でいとおしくなる恋愛小説だった。「結構な人生」はあの詩に泣かされる。「心の壁、愛の歌」も「アーノンクールのネクタイ」も味わい深い恋愛小説であった。