飛鳥部勝則『鏡陥穽』

鏡陥穽

鏡陥穽

夜道を一人で歩いていた葉子は突然、見知らぬ男に襲われた。必死に抵抗しているうち、何かの塊を手にし、男の頭に打ちつけた。男は死んだ。正当防衛とはいえ、殺人を犯したのだ。しかも通報すればレイプの話もしなければならなくなり、恋人の武との付き合いに影響するかも知れない。男をトランクに押し込み、捨てる場所を探した。と、検問に引っ掛かった。いきなり犯行がバレたのか、と思ったが、用件は違っていた。近くの刑務所から連続レイプ犯が脱走したというのだ。もしや、自分が殺したのはその脱走レイプ犯ではないか。検問を抜け、葉子は男の死体を無事海に捨てた。だが翌日、自分が殺した男と瓜二つの男が葉子の前に現れた。男は刑事の久遠仙一と名乗り、葉子の犯行を一部始終見ていたと言った。だが何故「全く同じ男」がいるのだ? やがて久遠は、鏡の館での驚くべき出来事を語りはじめた……。
飛鳥部勝則、初の本格ホラー。殺したはずの男が生きている、という奇妙な状況は、折原一の長編にありそうなパターンで、そんな叙述トリック系かな、と思っていたら、話がどんどん妙な方向に進んでいく。まだ第二部の段階では(ホラーな要素があるものの)それなりに納得出来る展開になっていたのだが、後半、特に第四部はもう訳が判らない。鏡の向こうに映っている自分が勝手に動き出す、というネタは誰でも思いつきそうだが、ここまでエスカレートすると、もうどうにでもなれ、とまで思ってしまうほどだ。あー気持ち悪い。口絵の稲垣考二(今回は飛鳥部氏本人の絵ではない)の絵の奇妙さ、気持ち悪さも効果を上げている。