西加奈子『さくら』

さくら

さくら

両親と兄と妹と「サクラ」という犬に囲まれた「僕」の年代記。ドラマティックな大事件は中盤までほとんど起きず(後半で大事件が起こる)、全体的に淡々と物語が綴られていく。その淡々としたところが逆に印象に残る、素晴らしい小説だと思った。「兄」の眼から見た「妹」の成長物語だなあ、と思いながら読んでいて(それはあくまでも一側面に過ぎないのだが)、読んでいる間、ずっと、さだまさしの「親父の一番長い日」という歌を思い出していた。家族の幸せって、こういうことかなあ、と感じた。勝手に歌のイメージを持ったものだから、美貴が結婚して終わるものだと決め付けて読んでいた。全然違うんだけれどね。
唯一の不満点は、犬のサクラの気持ちが、台詞の形で擬人化されているところだ。当然人間と直接会話は出来ず、台詞は全く噛み合わないのだが、それをわざわざ挿入する意味って、あったのだろうか。


ぶっちゃけ、「来年の本屋大賞にノミネートされるかも知れないからその前に一応読んでおくか的読書シリーズ」の一環として読んだのだが、これは意外な収穫だった。むしろノミネートされて欲しいとすら思った。
ちなみに、「来年の本屋大賞に(中略)シリーズ」として私が今年読んだ「守備範囲外」の作品は、島本理生ナラタージュ』と、絲山秋子『逃亡くそたわけ』、蓮見圭一『心の壁、愛の歌』あたりである。