朱川湊人『かたみ歌』

かたみ歌

かたみ歌

『花まんま』で直木賞を受賞したばかりの朱川の受賞後第一作が早くも登場。やはり「ノスタルジック・ホラー」の短編集だが、今回は東京の下町が舞台。「覚智寺」という名の寺と、いつも「アカシアの雨がやむとき」が鳴り響く商店街、そして芥川龍之介に似た老人が店主の古本屋がある町という設定だ。全てが繋がっている話ではないが、時折リンクするところもある。全体的に『花まんま』よりはプロットの捻りがやや甘いし、ノスタルジーも過剰に演出し過ぎている傾向が見られるのが残念だが、物語はやはり素晴らしい。こういう小説なら、いつまででも読んでいたいとすら思う。個人的ベストは、猫のような動きをする小さな「猫魂」の話「ひかり猫」。ストーリーもいいが、単純な引っ掛けにまんまと騙されてしまい、それが余計に効果的だったのでツボにはまった。いい話書くなあ。「栞の恋」は乱歩の「算盤が恋を語る話」を想起させるが、そこにホラー的なオチを持ってくるところが巧い。「おんなごころ」も本当に単純な話なのに、これで必要充分だ。これがラストの「枯葉の天使」に繋がる話になっている。最初の「紫陽花のころ」で伏せられていた古本屋の主人の名前も、最後の短編で分かる仕組みになっている。(この感想はゲラを読んでのものです)