薬丸岳『天使のナイフ』

天使のナイフ

天使のナイフ

愛娘・愛美と二人だけで暮らす桧山は、3年10ヶ月前に起こった事件を忘れることが出来ない。わずか五ヶ月の娘の目の前で、妻・祥子が殺されたのだ。物取りの発作的な犯行だと思われたが、なんと犯人は、十三歳の少年三人だった。祥子を殺した犯人たちは、少年法の元で保護され、逮捕されず更生の道を進むことになった。やり場のない怒りが湧き起こった。当時の記者たちの取材にも怒りをぶつけていた、「国家が罰を与えないなら、自分の手で犯人を殺してやりたい」――桧山の元に、かの事件の捜査をしていた刑事が久し振りに訪ねてきた。公園で少年が殺されたのだが、その被害者が、妻を殺した三人組の一人「少年B」こと沢村だという。桧山は容疑者として疑われているのだ。改めて当時の事件の関係者を追う桧山の前で次々に起こる事件、そして浮かび上がる驚愕の真実……。
今年の乱歩賞は評判がいいらしい、と聞いて読んでみた次第。これは確かに面白い。前半は少年法の問題を中心にしながらも、加害者の少年たちが次々に狙われ、被害者側の主人公に容疑がかかる、というプロットで進む。これだけでも充分面白いのに、後半の「第4部」から、怒涛の展開を見せるのだ。どんどん明らかになる意外な事実、先の読めない展開、そしてラストの多重どんでん返し。文章も安定しているし、初めて書いた小説でここまで読ませて破綻もしていない完成度には全く恐れ入る。最近の乱歩賞でも群を抜いて面白い作品だ。
もし枚数制限がなければ、少年犯罪についてもっともっと書き込めていただろう。そうなればもっと重い作品になったはずで、これだけの分量では重厚さに欠けるのが欠点。しかしエンタテインメントとして素晴らしいのでこれでも満足だ。