リリー・フランキー『東京タワー』

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

これは「ずるい」小説だ。
「ボク」と「オカン」と「オトン」の物語。「ボク」は著者自身だから、自伝的小説である。こんな物語を読んで、泣けない人なんていないだろう。読みながら、自分の母親とか、父親とか、故郷のことを思うはずだ。
確かに素晴らしい作品だ。が、先に「ずるい」と書いたのは、誰もが親や肉親にまつわる話は書けるはずだからだ。長編の1つや2つくらい書けるだけのプロットがあるだろう。私にもある。不遜なことを言うようだが、多分私が自分の両親のことを綴っても、みんなを泣かせるくらいの物語が書ける自信がある。リリー・フランキーのような文才が自分にないのが悔しい。
例えばビートたけしの『たけしくん、ハイ!』や、島田洋七の『佐賀のがばいばあちゃん』もそうだが、普段こんな真面目な話を書かない人が書くから、「振り幅」が大きい分感動も大きい、というのもあると思う。
小説のレトリックではなく、エッセイ風に書かれているのも新鮮だった。いや実際エッセイなのかも知れないが。あのイラストが挿入される場面も「ずるい」なあ。泣くに決まってるじゃん。


来年の「本屋大賞」に今最も近い、と言われる作品である。