瀬名秀明『デカルトの密室』

デカルトの密室

デカルトの密室

これは「知能(インテリジェンス)」についての物語だ。なぜこの宇宙に知的な存在が誕生したのか、なぜその存在はこの世界を、この宇宙を、そして自分自身のことをもっと知りたいと願うのか、なぜ人々は知能に魅了され、知能に幻惑され、知能の謎に絡め取られて、ときに殺人まで起してしまうのか、そういったすべての謎についての物語だ……ロボット学者の尾形はメルボルンで、既に死んだはずの学者フランシーヌ・オハラの姿を見つけた。彼女は車椅子姿で、それを押しているのもフランシーヌ――いや、彼女そっくりのロボット――だった。人工知能ゲームコンテストが繰り広げられる中、フレーム問題でパニックに陥った尾形のロボット・ケンイチがフランシーヌを射殺してしまった……。
パラサイト・イヴ』から10年、長編では『八月の博物館』から5年。著者のSFミステリはまた新たなステージに到達したようだ。「ようだ」と書いたのは、この小説が私の理解を遥かに超えており、充分に理解出来ていないと思うからだ。だからといって、ただ難解な物語ではなく、読んでいる間は面白いのだから不思義なのだ。
ロボット技術が進み、ほとんど人間と変わらないロボット(擬態エージェント)が登場している近未来での事件。ミステリ的に進行するし、「密室」という言葉が使われるが、物理的な密室ではなく、概念的な密室のような感じで、そこにデカルトの哲学(我思う、ゆえに我あり)が絡んでくる。いかにも理系な作家が考える密室ミステリなのだ。で、この辺の展開がちょっと難しすぎて、作品世界そのものをイメージするのは結構大変かも知れない。でもそういうのが却って知的刺激になって面白い。「2001年宇宙の旅」や「スウィング・ガールズ」などの映画の引用もあったり、エラリイ・クイーンのミステリが引き合いに出されたりするのも楽しい。「フレーム問題」は全く知らなかったのでネットで調べてしまった。普通のミステリとは明らかに違うレベルにある小説を読んだような印象だった。
(この感想はゲラを読んでのものです)