太田忠司「いつか見た子」(9ページ 税込100円)

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「隆宏のことなんだけど……」妻にそう切り出されたとき、秀幸には予感めいたものを覚えた。妻からは、やはり「苛め」という言葉を聞かされた。自分の子供にだけは、あんな地獄を味わわせないでください、そう願いつづけてきたのに。隆宏は苛めにあっているのか……妻はさらに、事の真相を隆宏に訊いてほしいと言ってきたが、それは母親からそれとなく聞いたほうがいいのではないかと秀幸は思った。妻はそんな夫の煮え切らない態度に苛立ったのか、途中で席を立ってしまった――苛めた人間は忘れるのだろうが、苛められた人間は、多分一生忘れない。秀幸にも小学生時代、苛められた記憶があった。苛めは学校でもあったが、いまだに恐怖に震えるのは小学校の登下校の際に通る公園で待ち伏せしていたあいつのことだ……。そしてある日の会社帰り、学校帰りの隆宏を偶然目撃した。秀幸は、苛めの事実を確かめるため、まるで吸い寄せられるように息子の跡を尾けた――。
PDFにしてたったの7ページ(表紙と奥付を除いて)のショートショート。だが、わずかの分量で読者を作品世界にぐいぐい引っ張り込む技量はさすがである。自分の息子が苛められているのではないかという不安から、自分の幼少時の「苛められ体験」に流れていく展開もスムーズだ。その回想話は、特に男性読者なら程度の差こそあるものの似たような体験をしているものだろうから、充分に感情移入も出来る。そして現実に戻り、息子の跡を尾行した先に父が目撃する景色は……タイトルからもある程度は予想がつくとはいえ、このラストはちょっとショッキングだ。この時、主人公を襲うであろうカタストロフィーの大きさは計り知れないのではないだろうか。
なお作者は、「世にも奇妙な物語」のような路線を狙ったそうで、なるほど確かに映像化に向いてそうな作品である。
イメージでは主人公は小堺一機だそうなので、頭の中で想像しながら読むと面白いかも。



ところで「週刊アスキー」今週号(9/13号)のe-NOVELSページにて、モニター書評の紹介があります。で、なんと今回は「政宗九の視点」のキャプ画像が掲載されています。ありがとうございます! キャプられている画面でアップされているのがモー娘。握手会の話題、というのは見た瞬間ズッコケましたが、まあ私らしいといえば私らしいところでしょう。今後ともよろしくお願いします。