東野圭吾『容疑者Xの献身』

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

高校の数学教師・石神は、マンションの隣の部屋に住む靖子に惚れていた。靖子が働く弁当屋にわざわざ遠回りをしてまで買いに行くのも、彼女に会うのが目的だった。靖子は中学生の娘・美里と住んでいた。だが離婚した元夫の富樫は別れた後も靖子のことが忘れられず、彼女を追い続けていた。そして運命の日、富樫は靖子のマンションにまで足を伸ばしていた。気がつくと靖子は、富樫の後頭部に花瓶を振り下ろしていた。怒りに燃えた富樫と揉み合いになった。気付くと、炬燵のコードで首を絞めていた――と、その時、隣の石神から電話が入った。妙な物音に不審に思ったらしい。靖子は観念し、石神に全てを打ち明けた。自首を考えている靖子に、石神はある案を提示した。石神の頭脳をフル回転させ、警察の手から逃れるための案だった。石神にとっては、靖子の幸せこそが最大の喜びなのだった。
という事件を捜査する側にいるのが、天才物理学者の湯川学。そう、これは『探偵ガリレオ』『予知夢』と続いたシリーズものであり、初の長編なのだ。しかも相手は湯川の同級生で最大のライバル、石神。天才同士の頭脳戦は、刑事コロンボ(や、古畑任三郎)のような倒叙ものとして描かれるのだが、そう簡単に進むわけがないのが東野圭吾の小説である。後半の意外な展開、そして予想外の解決、そこに隠された驚愕のトリックと動機。泡坂妻夫の某短編を連想したが、もちろんそちらとは使い方もスケールも異なる。そして真相を知った時、この小説が優れたミステリであると同時に恋愛小説でもあることに気付かれるのだ(最初はただのストーカーだと思ったけれど)。東野圭吾のミステリの到達点と言えるだろう。今年を代表する傑作であることも疑いない。