小川一水『老ヴォールの惑星』

第六大陸』『復活の地』で話題のSF作家小川一水の作品集。リーダビリティーの高さとSF的設定の分かりやすさで万人にお薦め出来る。どの作品も希望が残されるのも好感が持てる(まあ純粋にいいラストばかりでもないような気もするが)。
「ギャルナフカの迷宮」:政治犯が閉じ込められる迷宮内部で、囚人たちの独自の社会が発展していく。他の作品に較べてSF要素が少なめだが、実は一番気に入ったのはこれ。社会風刺みたいなのも感じられて面白い。
「老ヴォールの惑星」:ホット・ジュピターの生命体が、遠く離れた地球とファーストコンタクトをするまでの話。遠大な物語と、最後の人類とのやり取りに感激。
「幸せになる箱庭」:木星の大赤斑から何かを射出している知性体とのコンタクト。独特の言語体系、「ラプラスの魔」、ヴァーチャルリアリティなどの要素が詰め込まれている。
「漂った男」:見渡すところ海ばかりの惑星に墜落したおれは、唯一の連絡手段「Uフォン」での通信を続けるが……一見絶望的な設定と、落しどころをどこに持っていくか読めない展開。切なさと希望とが入り混じる深いラストだ。