三雲岳斗『旧宮殿にて』

旧宮殿にて 15世紀末、ミラノ、レオナルドの愉悦 (カッパノベルス)

旧宮殿にて 15世紀末、ミラノ、レオナルドの愉悦 (カッパノベルス)

中世ミラノの旧宮殿、宮廷に出入りする芸術家や学者たちが出入りする地区に、フィレンツェから派遣されたその男はいた。レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチである――さながら「名探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ」シリーズである。肖像画の消失と残された譜面「愛だけが思いださせる」、幽閉されていた令嬢の消失と現場に残った羊の死体「窓のない塔から見る景色」、右腕だけを残して消えた彫像「忘れられた右腕」、殺された男が遺した遺言が入った箱が消えた謎「二つの鍵」、死体から両手が切り取られていた謎「ウェヌスの憂鬱」の5編。全て「消失」がメインの謎なのも興味深い。読み始めこそとっつき難かった中世の描写も、読み進むにつれて全てが活き活きとしてきて、世界に浸れるようになる。本格ミステリとして最も完成度が高いのは、http://www2.odn.ne.jp/masamune-q/note/taishotanpen05.htmlにも選ばれた「二つの鍵」だが、「窓のない塔から見る景色」の炸裂する物理トリックも捨てがたいし、「忘れられた右腕」の謎解きも見事だ(この二つの消失トリックは傑作だと思う)。最後の短編は事件の謎よりも、すごく単純な引っ掛けに簡単に騙されたことが悔しかった。