歌野晶午『そして名探偵は生まれた』

そして名探偵は生まれた

そして名探偵は生まれた

過去に祥伝社「400円文庫」から出た歌野作品『生存者、一名』と『館という名の楽園で』の再録に、書き下ろしの表題作を加えた中編集。400円文庫が既読の人にとっては非常にコストパフォーマンスの悪い一冊だが、それはここでは問題にしないことにしよう。この書き下ろし中編が、また歌野らしい快作なのだ。
「そして名探偵は生まれた」:数々の難事件を解決してきた名探偵・影浦逸水と助手の私・武邑は、事件解決のご褒美として伊豆に招待されていた。招待といっても、招いたオーナーの依頼で社員の前で講演をさせられたのだが。ところがその山荘で、当のオーナーである荒垣社長が密室状態で殺された。伊豆には珍しく雪が降っていたが、不審者の足跡は残されていなかった……歌野の初期作品を思いださせるトリックよりも、ラストのダークさが最高。タイトルの真の意味もそこで判る。本筋とは関係ないが、作中で影浦が解決したことになっている事件の名前が面白すぎ。「四国剣山胎内洞逆十字架事件」「空中伽藍の四重密室」「呪いの十三点鐘事件」「トランク詰めの花嫁、伊豆―磐梯―軽井沢殺人トライアングル」「天狗教ピラミッドの百死体」……読んでみたい。
「生存者、一名」:教祖の命令でJR駅爆破事件を起こした犯人であるわたしたちは、東シナ海の孤島・屍島に辿り着いた。あの事件は神の思し召しだった。ここで海外に逃亡するための準備を待つのだ。が、司教の失踪からメンバー間に疑心が生まれ、やがて発生する殺人。最後に残ったのは……サスペンス性の高い作品だが、ラストには賛否両論かも知れない。
「館という名の楽園で」:探偵小説愛好家の冬木は長年の憧れだった「館」、三星館を作り、友人たちを招待した。イギリスにあった館を移設したものだが、この館には様々な伝説が残されていた。ここでちょっとした「殺人ゲーム」を行うことになったが……単純ながら効果的な大トリックも面白いが、動機がちょっと泣かせる。