石持浅海『セリヌンティウスの舟』
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/10/20
- メディア: 新書
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セリヌンティウスは、太宰の『走れメロス』でメロスを信じて待つ友人の名前だ。この名前がこの作品を象徴している。「論理による謎解き」と「仲間の信頼関係」との間で苦悩する主人公たちの話。「青酸カリの瓶のキャップが締まっていたのは何故か」「瓶が転がっていたのは何故か」たったこれだけの謎で、物語を成立させているその手腕には恐れ入るばかりだ。一つ一つの仮説を丁寧に吟味して可能性を絞っていく、ガチガチの本格魂に酔いしれながら読み進めることになる。ただ、それはメンバー以外にとってはどうでもいいような謎だし、もしかするとそんな計算など全くなかったかも知れないことを延々と考察し続けていることに飽きるのも事実。それと、ラストまで来ると動機面で説得力に欠けるのが惜しい(そもそも美月が死ぬ動機からしてあまり納得出来ない)。それでも、これは是非多くの人に読んで欲しい作品だ。本格ミステリの新たな可能性が秘められているような気がするからだ。石持浅海は今後の本格ミステリ界をリードする作家の一人になるだろう。もう間違いない。