スタンリイ・エリン『最後の一壜』

最後の一壜 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

最後の一壜 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

素晴らしい。ずっと積読にしていたことを恥ずかしく思う。
スタンリイ・エリンだからそれなりの水準にはあるのだろうが、『九時から五時までの男』ほどではないだろうな、と勝手に予測していた。とんでもなかった。この短篇集のレベルの高さには恐れ入る。熟成に熟成を重ねた、無駄のない作品群である。だがどの短編にしても、前半がとっつき難い。事件が最初から起こらないので、普通小説に近い展開であり、どんな話になるのかさっぱり予想できないからだ。だが話の方向性が見えてからが凄い。緊迫感溢れる展開と、あっと驚くラストの着地点が素晴らしい。ここに落ちるとは思いも寄らなかったが、よく考えればそこにしか落とせない、このラストだから作品が引き締まっている、そんな短編ばかりだ。最高傑作はやはり表題作「最後の一壜」、これは驚愕を通り越して感激した。他にも「エゼキエレ・コーエンの犯罪」「127番地の雪どけ」「古風な女の死」「画商の女」「警官アヴァカディアンの不正」「内輪」など、印象的な作品ばかり。最後の一行を読み終わった瞬間「お見事!」と言いたくなる。エリンは確かに過去の作家だが、現代でも充分通用する。騙されたと思って読んでいただきたい。