伊坂幸太郎『砂漠』

砂漠

砂漠

四月、僕(北村)は仙台の大学に進学した。その最初のクラスの飲み会で、隣に鳥井という男が座ってから、僕の大学生活はスタートした。やがて、その鳥井と中学時代に同級生だった南という大人し目な女の子と、誰もが羨む美人の東堂、そして変な言動で一人浮きまくっていた西嶋、この5人で一緒に遊ぶことが多くなっていった。鳥井を除く4人で「東南西北」になるという偶然(?)から、麻雀をやることも多くなった。仙台では「大統領か?」と声を掛けて襲う連続強盗、通称「プレジデントマン」(命名者は西嶋だが)が暗躍していた。南にちょっとした「超能力」があることも知った……「春」の事件は、僕たちが合コンに参加した時から始まっていた――。
伊坂がまたもやってくれた。この作家には「この地位で満足」という場所などないのではないか。いったい、どこまで昇れば気が済むのだろう。
最初こそとっつき難いが、5人のキャラが固まってからは素晴らしいの一言。最後なんて、もう彼らの活躍が読めないなんて、と名残惜しくなってしまった。それまで「最も愛着が湧いた伊坂キャラ」は『陽気なギャングが地球を回す』の4人組だったのだが、その地位があっさり入れ替わってしまった。西嶋のキャラが最もユニークで目立ってしまうが、みんなそれぞれいいと思う。ラストで「幹事といえば莞爾」の同級生・莞爾が北村に言う台詞に、グッと来たね。こういう小説を読まされると、自分の青春時代がいかに詰まらなかったを思い知らされ、もっといろいろぶつかっておけば良かったなあと反省するばかりだ。物語については、予備知識なしに楽しんで欲しいので、どこがどう面白いかはあまり書かないでおきたい。一つだけ、最後にちょっとした「引っ掛け」があるのが伊坂らしいところか。ミステリ的な驚きではないので、伏線がなかったとかアンフェアだとか怒るのは筋違いだろう。
今回の伊坂はミステリじゃないらしいから見送ろうかなあ、と思っている人は勿体無いよ! この青春群像に感動していただきたい。