フィリップ・クローデル『リンさんの小さな子』

リンさんの小さな子

リンさんの小さな子

その老人は船に乗っている。名前はリンさん。まだ産まれたばかりと思しき幼子を連れている。この子の親がリンさんの息子夫婦だったが、国で長く続いている戦争で、夫婦は死んでしまった。リンさんは「サン・ディウ」と名付けられていた小さな子と一緒に、祖国を離れる決心をしたのだ。見知らぬ土地の宿舎に着いたリンさんは、その地でバルクという男に出会う。言葉が全く通じなかったが、リンさんと幼子は彼と仲良くなった……。
クローデルはミステリ作家ではない。『灰色の魂』で有名なフランスの作家だそうだ。リンさんの祖国については明記されないが、ベトナムを指しているらしい(クローデル本人も、ベトナムの子供を養女にしているそうで、その辺りの体験も一部作品に生かされているのだろう)。ベトナム戦争で息子夫婦を失った老人の孤独と哀しみを描いた作品で、ラストではその孤独感が一層増幅されて泣ける――というのが一般的な評価だろうと思う。しかしミステリマニアの視点で読むと、これはどう考えてもアンフェアでバカミスだ。それ以前に私は序盤から、着地点がそこにあるだろうなあということが読めてしまっていたので、やっぱりと思うと同時に、叙述上の処理に統一性がないことに逆にイラついてしまった。今年いろんな意味で話題になった某ミステリの序盤で「くすぐり」として使われていたトリックを、話のクライマックスに持って来られても、何を今さらこんな幼稚な手を、と思うだけだ。
これらの感想はあくまでも「本作をミステリとして見た場合の評価」なので、一般とはずれているだろうことをお断りしておく。