岩井志麻子『死後結婚』

死後結婚(サーフキョロン)

死後結婚(サーフキョロン)

京雨子が在日韓国人の美しい女性・沙羅と出会ったのは、恋人の慶彦からの紹介だった。沙羅には江原という内縁の夫がいたが、その江原がある日飛び降り自殺してしまった。まだ正式な婚姻関係になかったので、韓国で死者との結婚=「死後結婚」をしたいと沙羅は言い、京雨子が同行することになった。その頃から京雨子にも、不気味な小説がメールで届けられたり、まるで死者のような声の電話を受けたりした。かつて京雨子にしつこく付き纏い、現在は行方不明になっている前の恋人・尚一のせいではないか? やがて京雨子は、沙羅にも惹かれていくようになった……。
最近では作家自身のキャラが目立ってきている岩井志麻子だが、やはりプロ作家として凄い人なんだ、という当たり前のことを改めて思い知らされた一冊。「騙り」の巧さは絶品で、知らず知らずのうちにどんどん読まされている感じがした。ホラーとエロスの融合にも見事に成功していて、露骨な描写でもなんでもないのに、とても淫靡だ。言葉と文章の選び方が絶妙なのだ。ただ女の裸を出せばいいんだろ、とか考えるエロ作家には絶対に書けない領域だろう。小説とはこのようなものなのだと見習うべし。後半でのホラー的な盛り上がりがもう少しあればと思ったが、それは贅沢な悩みだろうか。ラストの落しどころは良かったと思う。