鳥飼否宇『激走 福岡国際マラソン 42.195キロの謎』

2007年12月。翌年の北京オリンピックの代表選手選考会を兼ねた福岡国際マラソンが今スタートした。海外の有名選手に混じって日本の有力選手、小笠原、二階堂、谷口らがこのレースに賭けていた。だが今日の日を待ち望んでいたのは彼らだけではない。一般参加ながら目立つために記者会見に割り込んだ岡村、在日韓国人のランナー洪、同時開催の視覚障害者マラソンの選手徳山、白バイで先導している長田、そして「ペースメーカー」として前半選手を引っ張る役割を担っている市川。誰もがそれぞれに思いを秘めていたのだ。そしてレース中に事件は起こった……。
ラソンとのタイアップ企画ではなかろうか、と思えるほど直接的なタイトルに引いてしまう。しかも著者は日本のバカミス界期待の星・鳥飼否宇だというのもなんとも不思議で、一体どんな小説なのだ、と興味本位で読んでみた。元々は小学館のサイトおよび携帯サイトで連載されていたそうだ。マラソンのスタートからゴールまでを時系列で追いながら、そこに渦巻く複雑な思惑と、事件の経過が同時進行で描かれる。だから読む側も、実際のマラソンを見ているような雰囲気に浸れる。途中に発生する殺人(マラソンランナーが競技中に死ぬのだ)のトリックに鳥飼らしさがあるのと、ラストの「驚き」も鳥飼らしい部分が感じられる(とりわけ後者のはバカミスっぽい)。ただし、いかにも携帯サイトの連載らしい軽さが全体的に感じられるのも事実。読み終わると、鳥飼否宇という人選の不思議さと、何故鳥飼がこの仕事を引き受けたのかが「大いなる謎」として残ってしまう。