歌野晶午『さらわれたい女』

さらわれたい女 (角川文庫)

さらわれたい女 (角川文庫)

便利屋をやっている俺はある日、「私を誘拐してください」という依頼を受けた。それが、小宮山佐緒理との出会いだった。俺はこの「狂言誘拐」に便乗し、まんまと金を受取ることに成功した。しかし、ここからが地獄の日々の始まりだった……。
実は初読。数少ない歌野の読み残し作品のひとつだ*1。映画化された「カオス」も観ていない私だが、事前に予想していた話とはかなり違っていて、そこにまず驚いた。単純な誘拐事件を「狂言誘拐する側」から描いただけのものだろうと思い込んでいたのだが、もっと複雑な話で、読み進むにつれて事件の様相がどんどん変わっていく。どっちが被害者でどっちが悪玉なのか、判らなくなってくるのだ。最後の方がちょっと通俗的な展開になっちゃったかなあ、という気がするのが惜しいが、途中何度も驚かせてくれるし、全体的には満足。今まで未読だったことを激しく後悔した一冊となった。

*1:あと『ROMMY』と『ガラス張りの誘拐』だけ未読だと思う。