ジョン・ディクスン・カー『ヴードゥーの悪魔』

ヴードゥーの悪魔 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

ヴードゥーの悪魔 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

19世紀半ばのアメリカ、ニューオーリンズ。そこで英国領事を務める男の元へ相談が持ち込まれた。「娘の様子がおかしい。〈ヴードゥー・クイーン〉に魅せられているようだ。なにかの事件に巻き込まれなければいいか」と。その最中、警告を発するように、外から人間の首を思わせる瓶が部屋へ投げ込まれた。走る馬車からの人間消失、衆人環境のなかの謎めく死、銃撃、そして全てを見透かすような「犯行予告」には〈パパ・ラバ〉と署名が……。
すみません上の粗筋は本書にあるものをそのまま引用させていただきました。この粗筋以上に上手く纏められないので。それはともかく、全国のカー・ファンが待ち焦がれていた「最後の未訳長編」がついに翻訳出版された、それだけでも功労賞ものである。今まで訳されなかったのだから、よほどの駄作でファン以外には読むところがないかというと、意外なことにそうでもなく、怪奇趣味(ヴードゥーの呪い)や犯行予告、そしてぬけぬけとした殺人トリックなど、カーらしさが伺える作品だ。「意外な犯人像」も出してくるし、伏線も巧妙。ただし、それらも含め、著者による「好事家のためのノート」を読んで、ああなるほどカーはこういうことをやりたかったのか、とようやく気づかされる部分も多いのは辛い。解説されてやっと理解できる作品になってしまったか。退屈な場面も多いが、ニューオーリンズの風俗・時代描写は楽しめる。