綾辻行人『びっくり館の殺人』

びっくり館の殺人 (ミステリーランド)

びっくり館の殺人 (ミステリーランド)

ぼくがある日古本屋で見つけた一冊の本、鹿谷門実『迷路館の殺人』が、「あの館の密室殺人事件」への記憶を呼び起こすことになった――1994年、兵庫県に住んでいたぼくは、様々な噂が立っていた「びっくり館」と呼ばれる謎の建物を訪れた。その時、館の2Fのベランダに、ぼくと同い年くらいの少年がいて、声を掛けてきた。トシオとの出会いだった。それからぼくはトシオと仲良くなり、びっくり館にも入るようになった。館には他に老主人と、少女の人形がいた。「リリカ」と呼ばれるその人形を、老主人は亡くなったトシオの姉・梨里香として扱い、リリカのための部屋まであった。その部屋の壁には、七色に塗られたたくさんの「びっくり箱」の扉が並べられていた。そう、この部屋こそ「あの事件」の現場だったのだ……。
ミステリーランドでありながら、「館」シリーズの新作として書かれた作品。物語の随所に綾辻らしさが感じられる小説だが、アンフェアギリギリの路線もまた、今までの綾辻らしさと同じであった。真相を知らされた時の衝撃も、今までのシリーズに較べるとちょっと薄い。ちょい役で登場する「あの人物」もほとんど何もしないし。どちらかと言えば、デビュー当時からお世話になった宇山氏への、綾辻なりの「返礼」を形にした小説という側面があるように思われる。宇山氏ゆかりのあの作品(綾辻作品ではない有名作品)の話が挿入されるからだ。ホラーテイストなイラストとのマッチングは良かったと思う。