法月綸太郎『怪盗グリフィン、絶体絶命』

怪盗グリフィン、絶体絶命 (ミステリーランド)

怪盗グリフィン、絶体絶命 (ミステリーランド)

「あるべきものを、あるべき場所に」をモットーに、ニューヨークを拠点として活動する怪盗グリフィンの元に、「国際泥棒コンテスト(怪盗グランプリ)」への招待状と、カリブ海の島国サン・アロンゾ行きの航空券が届いた。だがグリフィンは騙されない。これはきっと架空の大会で、彼を島国に追いやっている隙にニューヨークで何かをしでかそうとしている者の罠に違いない。その手紙を「受取人不明」として返送した一週間後、グリフィンの元にオストアンデルという男から依頼が来た。メトロポリタン美術館にあるゴッホの絵を盗んで欲しいというのだ。だがそれは彼の信条に反する。断ろうとしたが、オストアンデルは予想外の話をした。美術館にあるのは贋物で、本物は私が持っている。本物と贋物を入れ替えて欲しいのだ、と――この依頼が、合衆国を揺るがす大陰謀事件に繋がろうとは、グリフィンにも予測不可能だった。
法月綸太郎が子供たちに提供した物語は、最初から最後までドキドキ、ハラハラさせられる軽ハードボイルド小説だった。法月らしくない作風だが、これがとても面白い。グリフィンの身に次から次へと降りかかるピンチ、そしてどんでん返し。グリフィンも他の人たちも、事件の裏の裏の、そのまた裏をかいていくので、一体どれが真実なのか、誰を信用していいのか分からない。だがこのくらいの混乱が、子供たちを興奮させるに違いないのだ。読書の愉しみを、ドキドキ感を味わってもらいたい、そんな法月の子供たちへの想いが詰め込まれているようだ。こういう小説が読める少年少女は、幸せである。挿絵のタッチも素晴らしいし、使われ方も効果的だ(特に78〜79ページの「割り込み方」は絶妙)。逆に、本作で法月綸太郎のファンになった子供が将来大きくなって『頼子のために』とか『ふたたび赤い悪夢』を読んだら、そのギャップに戸惑うかも知れない。私たち世代の「乱歩体験」に近いものを感じるかも。