柳広司『トーキョー・プリズン』

トーキョー・プリズン

トーキョー・プリズン

ニュージーランド出身の元軍人、フェアフィールドは、太平洋戦争が終わって廃墟と化した東京にやって来た。人探しのため、日本人戦犯が収容されている監獄「スガモプリズン」に囚人の聞き込みにやって来たのだ。だが彼はここで副所長ジョンソン中佐から新たな依頼を受けた。スガモプリズンで先日、軍曹が密室状態の部屋で謎の死を遂げた事件を調査して欲しいというのだ。いや正確には、囚人のキジマという男と一緒に調査して欲しいという。キジマは捕虜を虐待した容疑で収容されているものの、本人はその時代の記憶を失ったままらしい。過去に別の監獄で二度も脱走を図った要注意人物だが、その推理力・洞察力は米軍たちも一目置いている。事実、フェアフィールドが初めてキジマに会った瞬間、キジマはフェアフィールドが考えていたことの答えをいきなり告げたのだ。キジマは、自分の記憶を取り戻してもらうことと引き換えに、調査に加わることになった……。
今まで何となく苦手意識が先行して、読了することの少なかった柳広司作品だが、これは読み易い上にストーリーが分かりやすく、楽しみながら読み終えることが出来た。前半はキジマのキャラクタが最高。厳重に拘束された天才囚人という設定はレクター博士、脱獄を試みた手口は思考機械(「十三号独房の問題」)、そしてフェアフィールドの心を一瞬で読んだ推理力はまるでホームズだ。そのキジマの過去を探る過程では、日米の文化の違いから生じる誤解を巧く利用していて感心させられた。ただ終盤は、戦争に翻弄された人々の悲劇が前面に出てしまうので、やや大仰になってしまったのが残念に感じたし、そのために密室事件の真相の扱いが小さくなってしまったようにも思った(ありがちなトリックだしなー)が、これは私個人の意見なので、この過程も含めて傑作だと思われる方も多いだろう。非常に面白い小説であることは確かである。