貫井徳郎『愚行録』

愚行録

愚行録

閑静な住宅街で起こった一家4人惨殺事件。あれから1年、近所の人、妻の友人、夫の同僚、学生時代の友人たち……生前の被害者を知る関係者たちのロングインタビューから浮かび上がる、人間たちの真の姿。そして、時折挿入される兄妹のエピソードとの繋がりは……。
「いい人たちだったのに何故」で始まるインタビューも、進むにつれて被害者たちの嫌な姿、そして語り手たちの嫌な姿をも浮き彫りになっていく。極端なキャラとして描かれず、自分の周りにもいそうな人々だったりするし、ありそうなエピソードも多く登場する。こういう人間たちの「愚行」を淡々と読まされると、日々の生活がうんざりしてくるというか、人間関係にも嫌気が差してくるような気がする。何も小説でまでこんな嫌な思いをさせてくれなくても、とも思ってしまうが、それがこの小説の狙いなので、作者の思うツボに見事に嵌っているわけだ。
「ネグレクト殺人」の小さな囲み記事で始まる小説は、インタビューの合間に「お兄ちゃん」と語りかける文章が挿入される。その繋がりは最後まで明らかにされないが、さほど複雑にもなっていないので、驚きは少ないかも知れない。ただ、繋がった瞬間に、巧いな、と感心させられたのは確かだ。殺人に至る瞬間の心理描写も素晴らしい。