一橋文哉『闇に消えた怪人 グリコ・森永事件の真相』

闇に消えた怪人―グリコ・森永事件の真相 (新潮文庫)

闇に消えた怪人―グリコ・森永事件の真相 (新潮文庫)

昭和59年3月18日、江崎グリコの江崎勝久社長が誘拐・監禁される事件が発生。その後一年以上に亘ってグリコと森永など食品メーカーを、そして日本中を震撼させることになる「グリコ・森永事件」の始まりだった。大会社、警察、マスコミを面白いように手玉に取った「かい人21面相」の真の目的は何だったのか? 数多くの証拠を残し、「キツネ目の男」「野球帽の男」と実行犯らしき二人の人物像まで浮かびながら、犯人を逮捕できなかったのは何故なのか? 既に完全時効を迎えた事件(発表当時は時効前)の真相に肉薄するノンフィクション。
「一億総探偵化」した事件を細部まで突っ込み、振り返った傑作だ。驚くべきことに、あんなに世間を騒然とさせた事件そのものは、わずか1年程度でしかなかったのだ。その間、グリコ、森永ともに200億以上もの損失を与えてしまったのだから、事件の大きさ、影響力の大きさも伺い知れる。事件発生の6年前に、まるで「グリコ・森永事件」を予告したかのような告白をしている「53年テープ」の存在、江崎グリコそのものが抱えていた歴史的背景とグリコへの怨念、江崎社長が住んでいたマンションが「金大中事件」で金大中氏が監禁されていたマンションと同じだった(!)という事実からも浮かんでくる韓国コネクション……脅迫状と毒入りお菓子のことばかりがクローズアップされていたが、実は犯人に迫るデータはこんなにもあったのだ(まだまだある)。グリコへの怨恨からの犯行か、金が欲しかっただけなのか、それとも株価操作だったのか。様々なアプローチで浮かぶ犯人像は、どれも怪しいようにも見えるし、決め手に欠けるようにも見える。作品中に「最重要参考人M」として何度も登場する「キツネ目の男に間違えられた男」宮崎学も、こうして書かれると、やっぱり限りなく怪しい。しかし、結局真相は闇の中なのだ。