エラリイ・クイーン『チャイナ・オレンジの秘密』

チャイナ・オレンジの秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-31)

チャイナ・オレンジの秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-31)

(再読)
チャンセラー・ホテル22階で密室状態で殺されていた男は、誰も名前を知らない正体不明の男だった。この部屋の主・切手と宝石の収集家ドナルド・カークに用があったらしいのだが、その目的は本人も黙秘したまま死んでしまったのだ。しかもその部屋は、被害者の服から本棚に至るまで、動かせるものが全て「あべこべ」にされていた。現場に残されていたタンジールみかんの皮、裏印刷された誤植の福州切手……何故かリンクする中国アイテムの事件との関連性は?
本作を初読したのは高校生の時で、20年以上も前のこと。密室トリックと「あべこべ」の謎以外、全く記憶にない作品だった。久し振りに読んだら少しは物語を楽しめるだろうと思っていたが、実は中盤があまり乗れなかった。まだ当時は「神秘の国」だったと思われる中国ネタを取り込んだのは斬新だったのだろうが。それでも解決部分はさすがに巧く、犯人限定や被害者の職業に関する論理展開などは非常に楽しめた。また本作は、最後まで被害者の名前が全く分からないままという特異な作品で(わざわざ「名前は分からないが、さほど重要なことではない」と何度も強調される)、そのあたりのクイーンの意図に関しては法月綸太郎による「大量死と密室」という優れた評論があるので参照して欲しい(「e-NOVELS」で読める)。