芦辺拓『少年は探偵を夢見る 森江春策クロニクル』

かくして、名探偵・森江春策は生まれた……少年時代に体験した不思議なキネオラマとそこに現れた怪人、中学生時代に出会ったアパートでの怪事件、そして大学時代、記者時代、弁護士時代の事件を通じて、森江春策が名探偵になった経緯が伺える短篇集だ。「少年探偵はキネオラマの夢を見る」の乱歩テイストな空気と、そこでも「探偵小説」にこだわった点が面白い。そして『黒死館殺人事件』のパロディを含有した短編「幽鬼魔荘殺人事件と13号室の謎」は本作中の白眉であると同時に、今年の短編ミステリの収穫ではないか。トリックは簡単なのに、いくら説明されても理解し難いややこしさが最高だ。最後の「時空を征服した男」もまた実にややこしくて、こういうことに一生懸命になる「本格ミステリ」というジャンルの愉しさと欠点が同時に出ているように感じた。「街角の断頭台」の生首トリックもバカバカしいけど面白い。短篇集でも全く手を抜かない「本格」を書く芦辺拓の姿勢に拍手。