古川日出男『ルート350』

ルート350

ルート350

古川日出男は天才小説家だ、と以前書いたが、今回はそれを再確認する作業となった。やはり天才である。作者がドライブする車の助手席に座って、運転手が暴走するのを堪えているだけ、なのだが、それが心地良いのだ。また例によってよく分からないままの短編もあるが、それは私の理解力が足りないだけである。小説を読むということを純粋に楽しむべき短篇集だ。「ザ・マウス」がいるテーマパークの開園を迎える場での事件「カノン」、臨死状態の高校生が同級生3人の意外な一面を目撃する「ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター」、離婚を機に「離婚休暇」を取って飯田橋に降り立った男と少女ナカムラが出会う物語「飲み物はいるかい」あたりが私のお気に入りだ。今回鳥肌が立ったのは、「ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター」の冒頭近く、映画「タイタニック」を評した文章である。ここだけ引用させていただく。

 数日間で――愛。セックス・死。
 しかも文部省推薦みたいに感動して観ちゃってオーケー。
 教訓だらけの映画だった。生きろ、はめろ、疾走しろ。それから氷山に衝突して沈没。セリーヌでディオーンだ。