ディック・フランシス『大穴』
- 作者: ディック・フランシス,菊池光
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1976/04/20
- メディア: 文庫
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名作再読のつもりで読んでいたのだが、読んでないことが読書中に判明してしまった(『利腕』は既読だが)。単発ものが多いフランシスの競馬シリーズの中で、珍しく主人公がシリーズ化した作品だ(後に『利腕』『敵手』と続く)。競馬場を舞台にした乗っ取り工作に立ち向かうハレー、という構造は実に単純なものだが、次々とハレーを襲う危機には、読みながら手に汗握る。左腕が負傷していてほとんど使い物にならない、というのが実は重要な点で、この腕が……の展開は凄い。そしてこれが次作『利腕』への伏線にもなるのだ。「乗っ取り工作」も、現在の日本でも頻繁にあるように、決して古臭い題材ではないので身近に感じられるだろう。そして(これが最も大事な点だ)、シッド・ハレーの活躍が実にカッコいい。これほどまでに骨太な冒険ハードボイルドは、最近すっかり見られなくなってしまった。彼をバックアップする脇役たちも忘れられないキャラが多い。競馬に詳しくない方にも、単純に物語を楽しんでもらえる作品だろう。