大崎梢『配達あかずきん 威風堂書店事件メモ』

配達あかずきん (ミステリ・フロンティア)

配達あかずきん (ミステリ・フロンティア)

駅ビル6階にある書店・威風堂。しっかり者の杏子と勘の鋭いアルバイト多絵のコンビが、書店で遭遇した謎を追う連作集。老人が依頼した「『パンダ出版社』の『あのじゅうさにーち』」とは……「パンダは囁く」、失踪した母の足取りを追う手掛かりは『あさきゆめみし』……「標野にて 君が袖振る」、美容院に配達したばかりの雑誌に美容院のお客さんを誹謗する文章と盗撮写真が……「配達あかずきん」、プレゼント用の本を選んでもらったお礼にお客さんが来たが、誰も心当たりがなかった……「六冊目のメッセージ」、ディスプレイコンテスト用に飾りつけた売場が黒スプレーで荒らされていた……「ディスプレイ・リプレイ」の5作。
巻末座談会の戸川さんによると、過去に例のない「本格的書店ミステリ」だそうだ。著者は元書店員だそうで、書店員なら「ああ、分かる分かる」と共感する場面もしばしば登場する。曖昧なタイトルに対応する苦労は書店員はみんな知っているが、それをそのまま謎にしてしまったところは巧い(「パンダは囁く」)し、ディスプレイコンテストなどという発想も書店員ならではだ(「ディスプレイ・リプリイ」。ちなみに、創刊された雑誌や、創刊○○周年の雑誌などがこの手のコンテストをよく行う)。「六冊目のメッセージ」は真相に辿り付いた瞬間、あっそうか、なるほど巧いな、と思わせてくれる。ただどれもそうだが、「そこまでの事件はさすがにないだろう」と思うのも事実。発端と解決のギャップの大きさが気になるので、いまいち物足りなさも感じてしまう。
ところでこの本、表紙が非常に凝っている。今までの「ミステリ・フロンティア」の本の表紙が並べられているのだが、全部オリジナル表紙を作り直しているのだ。フロンティアのロゴまでわざわざオリジナルを作っている。是非実物を見てみてください。