ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』

発売忽ち大評判となった作品。男性中心社会の警察で働く女性警官たちの活躍と迷い、そして起こる大事件……。連作短篇集のような体裁だが、全体で一つの大きな物語として有機的に繋がっているようだ。だが実は、これはミステリとしては弱い。いや、ミステリではないと思う。ポケミスでではなく、本来はハードカバーで出すべき本だろう。
最初の「完全」は、「警官は人を殺すことがある。私は人を殺した。それは職務上仕方のないことだが、人を殺したのはれっきとした事実なのだ」という話で、そんなの今さら言われなくても、という話だし、次の「味、感触、視覚、音、匂い」では、死体が放つ臭いについて延々と書かれている。こんな風に、どんどん読んでいっても、さほど驚く事が起こらないばかりか、主人公たちのバックグラウンドがじわじわと明かされていくだけなのだ。だが、実はそれらがとても面白いのだ。ディテールの書き込みが素晴らしい。ストーリーテリングも非常に高い。横山秀夫が翻訳調になったような感じで、横山秀夫が好きな方なら間違いなく楽しめるだろう。そして無残極まりない殺人の捜査の過程で、ある事件が起こる。ここに焦点が合わされていて、この場面のためにそれまでの地味かつ長大な描写があったかのようだ。そして最後は、あれ……? いやいや、ともあれ、読書中は非常に面白かったことは事実だし、骨太な警察小説であることも間違いない。ミステリを期待しなければ、絶対に読む価値がある作品だ。