北村薫『紙魚家崩壊』

紙魚家崩壊 九つの謎

紙魚家崩壊 九つの謎

北村薫が今までに発表したノンシリーズものの短篇集。やはりというか、ミステリ度は高くないし、ラストの意外性もさほど強烈ではないものが多いので、本格としてはやや物足りない。が、個人的には大変面白く読めた。前々から北村薫は「“謎”を発見する」ことに長けた人だと思っている。普段の私たちなら絶対に見過ごすような些細なことから「謎」を感じ取り、それを解こうとする。この短篇集で挙げれば「サイコロ、コロコロ」が好例で、「十面サイコロを日常的に持っている人がいる」という、たったそれだけで、むしろどうでもいいようなことを「謎」として抽出し、その謎に挑むのだ。北村薫にしか書けない領域ではないかと思う。昔話「カチカチ山」を本格ミステリだとして意外な真相を持ってくる「新釈おとぎばなし」も北村薫らしい短編だ(エッセイ風作品でもある)。逆に「溶けていく」「俺の席」などは、北村薫もこんなの書くんだ、的な異色作品だ。「世にも奇妙な物語」風、とでも言うべきか。